日記 2023年8月20日〜8月27日

 

20日

出前の寿司桶に5個ずつ並んだ色とりどりの寿司たちの中で、「バカ寿司」と呼ばれたのがコーン寿司やと全員が一瞬でわかった。

 


21日

父とねこが同じポーズでお腹を仰向けに出して寝転がってる写真が、母から家族のライングループに送られてくる。「前田家」ってグループは、父や母や兄が2匹のねこの寝転がったりだらけてる写真を送ってきて、それにわたしが「さいこ〜」「助かる」「(スタンプ)」とかコメントをつけるやりとりが8割。この夏で実家を出てから2年が経った。

 


22日

職場で、わたしが先月半ばに梱包を済ませて置いていた商品を発送することになった。梱包時は入社直後だったこともあって、慣れてきた今なら忘れることはない、包装の上に必ず貼る決まりの会社のシールが貼られていなかった。忘れてるよ、と先輩に軽く言われて、あ!すみません、とだけ言えばいいのに、いまはもうわかってるんです、絶対忘れないんですって訴えたい気持ちがふいに出てしまったか、なにもわかってない頃に包んだやつです…って言い訳がましく付け足してしまった。大々的にいやな人間のそれってわけではないけど、別に言わんくてもよかった一言。それを思い出すたびちょっと落ち込む。で、その小さいことで落ち込んでいることに気づいてまたちょっと落ち込む。

 


23日

お客さんに送る商品の段ボールへの梱包作業をあらかた終えて、封をする前に先輩にチェックしてもらう。扱うのが陶器とあって、梱包にはものすごく気を使う。商品を入れたあとに、緩衝材として大きい茶紙を丸めたものを詰める手順なんやけど、四隅にまだちょっと隙間があったらしい。「前田さん、ここの詰めが甘いです」と言われて、実際のモノの状態と慣用句としての意味がここまで完全に一致することってあるんや、と、思わず「おお〜」と言いそうになったのをなんとか堪えて変な間ができてしまった。同じようなケースがほかにあるか考えてみたけどまだ思いついてない。すごかった。

 


24日

なんとなく落ち着かん日ってある。せっかくの休みやけど雨が降っていたので出かける気にもならず、ずっと気になってたクローゼットの整理に取り掛かる。最高と思う服、まあ一応置いとこうの服、処分する服に分けたところで、そわそわが止まらんくなり、やっぱり喫茶店で作業でもしようと思って商店街に向かう。

向かいながら、こういう日は大抵なにをやっても上の空やから、作業はだめやと思い直す。商店街はいつもちょっと新しい景色があるから、ひたすらアーケードを歩きながら音楽を聴く時間にしてみようと決めた。ちょっと悩んで、じっくりは聴けてなかった台風クラブの2ndアルバムを選ぶ。

屋根付きの長い直線の道としての商店街の使い道を見つけたり、そういう発見や遊びの発明があるたびに、みんなに教えたいとも、絶対誰にも言いたくないとも思う。大事な人にだけ伝授するのも楽しい。2曲目の「へきれき」が好きやった。歩きながら聴くのに向いてる。

 

 

25日

きた。スーパーバッド。たまにやってくる掴みどころのない気持ちのしんどさ。冷静に、なんでいつもこうなるか考えてみる。自分の心の動きに気づかないふりをしてしまったことを自覚した瞬間に、またそうやって自分で全部だめにする、って気持ちになってる気がする。

 


26日

ここであえて、あえてのノー飲酒からの筋トレ、極めつけにギターを弾きまくってだいぶ取り戻せた。あとは日にち薬でいけるのも知ってる。ここでしんどさに沈むために飲んだり、まったく新しい景色を求めたりするんじゃなくて、日常通りに戻りたいからこそ、無理やり日常通りに動く。普段はなにを決断するにも心が最優先やし無視したら絶対だめになるけど、こういうときだけは身体が先、心はあとで良いって気づく。

この夏で手に入れたよいもののひとつはこういう図太さと行動力やと思う。ほんまの意味で自分を可愛がるというのがどういうことかやっとわかってきた。

食べすぎた次の日にいっぱい走ったり食事抜くんじゃなくて、いつも通りのご飯に戻したら数日で元の体重に戻るってところから得た学び。

 


27日

一日の店番の仕事が終わり、今日の売り場での出来事を電話で社長に報告する。ひと通り伝えて電話を切ろうというときに、前田さんのことみんな褒めてるよ、いい子が入ってくれたわーって、とさらっと言ってもらう。ぶわっと胸のあたりに一気に気持ちがあがってくる感じがして、ありがとうございます、うれしいです、がんばりますとしか言えずに通話を終えたけど、帰る前に陳列のガラスケースを磨いた。