日記 2023年8月28日〜9月4日

 

28日

晴れた休みの日は必ず洗濯を回す。ハンガーの数も物干し竿の長さもそんなにないし、溜め込むとどんどんできんくなるのもあって、3日おきくらいのペースが一番楽やとわかってから、自然とそうなった。今日は4日分の服とタオルのあとにベッドシーツも回してしまって、回してから、干す場所ないやん!と気がついて、仕方ないからほかの服たちの上にちょっと被さるような感じではあるけど、なんとか竿にひっかけた。

多少変な干し方だろうが日陰になろうが洗濯物は乾くし、そのまま夜まで放っておいてから取り込んで敷いてみたシーツもタオルもやっぱり気持ちいい。そんなことありえるわけないのに、いつも人として完璧に高潔でいないといけないという思い込みや、それでできなかったことに執着してしんどくなってしまう自分にずっと前から気が付いてて、でも、ある程度適当にやってもちゃんと気持ちよくできあがった洗濯物たちを畳んでると、こうやってやってきたやんー大丈夫やで、て言ってくれる感じがする。

 


29日

やきものの勉強をする。今日は石川県の九谷焼。本から抜き出した九谷焼の起源を書きつける。「有田で陶技を学んだ後藤才治郎が1655年に開窯」。

「才」の字を書くたびに、小学生のころ通ってた塾の教室が浮かぶ。なかなかのお利口さんやったから、習った漢字をテストで間違えるようなことはほとんどなかった。

5年生のときやったと思うけど、たしか「才能」と書く問題で、「能」は書けたのに、「才」の3画目のはらいを左下から右上にハネで書いてしまって不正解になった。

当時、各教科に100問テストというのがあって、それ用に回答欄が100個ある用紙があった。間違えた漢字は、その回答用紙に100回書いて提出する決まり。

ああいう書き取り練習はたいてい「薩摩藩」とかの難しい漢字でやるやつやし、そもそも「能」をききたかった問題やろ、もう覚えたって…と思ったけど見逃してもらえるわけもなく。こんなん意味ないやんって渋々終わらせたけど、「才」の3画をきれいにあの枠内に100回書く時間の悔しさが、塾のカーペット敷きの教室のちょっとほこりっぽいにおいと一緒に焼きついてて、15年経った今日も迷わず3画目は左下に向かってはらえた。

 

 

30日

道の向こうのお店の前を急ぎ足で通り過ぎようとした女の人が、店員のショートヘアの女の人を見つけて、髪けっこう切ったね!って仕草をしていて、それでふたりがお互いを知ってるってことがわかった。

 

 

31日

向かいの雑貨店のちょっと日焼けした茶髪のお姉さん、いつもぴったりサイズのTシャツを着こなす引き締まった健康的な痩せ方が理想すぎて、ふとしたときに目で追ってしまう。海とかサーフィンが似合う感じ。いつも表情豊かで、話すだけで周りをぱっと明るくしてくれるような雰囲気。

絶対筋トレかヨガか、なんせ自分の身体にこだわって過ごしてる人やろうなーと思ってたら、夕方のみんなが疲れてくる頃に同僚のお姉さん2人にストレッチを教えてるのを見かけて、やっぱりそうですよね!!!!!ってなんかすごいうれしくなった。わたしの生活をちょっと明るくしてくれる名前のない繋がりのひとつ。

 

 

9月1日

ネイルを付け替えにいく。いつものサロンやけど、特に指名はしてないから毎回違うネイリストさんに担当してもらう。どの指から始めてどういう順番で塗っていくかはそれぞれやけど、今日の人はちょっと独特やった。

右手の小指→薬指→中指ときたら、大抵の人は左手も同じように小指からの3本を塗るところを、左手は薬指→中指→人差し指と仕上げる、みたいな変則的な進め方。

自分にとっては一番スムーズやからとか、なんとなく気持ちいいからとか、もしかしたら願掛けとかもありえるかもしれん。日々当たり前になってる作業や動きの中に、その人のルールがふいに見える瞬間が好き。為人やストーリーを想像する。


こういう場所での会話はくたびれて苦手やけど、美容室で本や雑誌を読んだり、まつ毛エクステの間に寝たりするのと違って、手が塞がってるうえに動かれへんからなにもできず、黙って座ってる。話さん客やとわかってくれてるから、ネイリストさんも無理に話題を振ったりせず黙々と作業してくれる。自分の身体がきれいに整えられていく過程を静かに見守るだけの時間。ネイルサロンの帰り道がいつもちょっとつやつやの気分なのは、たぶん爪がかわいくなったからだけじゃない。

 


2日

仕事の日はピアスを全部外す。職場の最寄駅で電車を降りたときに、ホームの向こうから歩いてきた金髪に派手なピンクの服の女の人の右耳の軟骨ピアスが光って、自分の左耳軟骨のが刺しっぱなしになってるのに気がついた。

 


3日

元バンドメンバーのふたりとDENIMSのクルーズ船ライブを見に行く。日が暮れて大阪港から船が出港すると、ちょっと蒸し暑かったデッキにも風が涼しくて磯の匂いがした。ハイネケンを飲みながら踊りまくる。終盤の「I'm」を3人並んで聴くと、2020年9月22日を思い出した。KANSAI LOVERS2020、初めての大阪城野音のステージ、あんなにライブ中の記憶がないのも珍しい。相当に緊張してたんやと思う。朝イチの自分たちの出番を終えてやっと気持ちがちょっとほどけてきた夕方ごろ、DENIMSのライブ。当時、数日前にリリースされたばっかりの新曲やった「I'm」を野音の客席で3人並んで聴いた。

そのときなにを思ってたかはもう覚えてないけど、あの日あのときあの瞬間のテーマソングになってて、たぶんこれからもずっとそう。

隣にいるふたりと、カンラバ思い出すよな、とだけ言い合って耳を澄ます。今度からは潮の匂いの混じった汗ばんだ空気と、ビールを飲んだぼんやりした高揚感も一緒に浮かんでくると思う。

 


4日

ライブ後のトリキがききまくってる。昨日はビール一本槍やったから二日酔いはそんなにひどくないけど、飲みすぎた次の日の謎の罪悪感が重たい。水をくみにキッチンへ起きると、シンク横の調理スペースにクリップチューナーが置いてあった。帰り道と帰ってからの記憶が見事にコマ送り。

単純に長い時間を一緒に過ごしたから以上に、ふたりほど、食の好みと食べる量と飲むペースが完全に一致する友達にまだ出会えてない。ある一定まではおんなじ速さでグラスを空けながらおんなじように壊れていって、最後はだれが一番調子乗ったかの差で終わりを迎える時間が違う。25にもなって、しかも3人しかおらんときに、未だに酒をいっぱい飲む、速く飲むとかって遊び方をしてしまうのはほんまに愚かやとわかりながら、まあどーなってもおもろいやろ、みたいな一緒にネジをぶっ飛ばしてくれるあの不思議な無敵感を好きでい続けてしまう。元気でいられるうちは、たまにこうやって集まって、デッカいあざをつくったり、ブレブレの写真を撮りまくったり、マジのいらんこと喋っちゃったりしたい。