日記 2023年9月5日〜9月10日

 

5日

教養として必要やな、とギターのコードや理論はふわっと勉強したけど結局いまではほとんど抜け落ちてしまって、完全に勘で曲を作ってる。3ヶ月ぐらい前に作って弾き語りで録音だけしていた、いまの自分のテーマソングのような歌をいよいよ仕上げようとボイスメモを開く。

向井秀徳が「オレ押さえ」を多用してるのに励まされて、公式に存在するんか知らんけどたまたま見つけたなんか良い響き、みたいな変なコードはすぐ使いたくなる。

ポジションのメモや動画をとらんから、数ヶ月も経つと押さえ方も忘れてて、なんで残さんで大丈夫と思った?と悔やみながら探してる時間はまあ情けない。でも、そこでそう来るんアツ〜〜とか他人事みたいに過去の自分に唸ったりしながらそのコードを探してるうちに、こっちのがもっといけてるやんって音が見つかったりする。

 

 

6日

昼間から5時間に渡る出張先での作業を終え、くたくたで助手席に座って、運転席の社長に顔を向けつつ話をする。横目に景色をなんとなく映しながら、高速道路が堺の工場地帯沿いに差し掛かったとき、左側からまぶしい光が車内に入ってハンドルあたりを照らす。あ、と思って、話が途切れた一瞬を見計らってちらっと視線を向ける。

ゲリラ豪雨が過ぎたあとの17時の空気がどこまでも澄んでて、複雑に入り組んだ工場群の構造がはっきりわかる。その向こうから夕暮れ前の最後の陽射しが差して、ちぎれた雲が浮かぶ空に、くるりの「天才の愛」のジャケットを思い出す。あれたしか坂口恭平さんのパステル画、わたしもあんな風に絵が描けたらよかったのにと思う。写真には写らん瞬間。

何事もなかったかのように会話に戻って、いま一瞬だけ見た映像を頭の中で補いながら、通り過ぎるまでの数分間、光る工場地帯をまた横目でずっと見てた。

 

 


7日

友人とその恋人の新居に招いてもらったので、お祝いにケーキと小さい花束を持ってあそびに行く。花束に入ってたつやつやした細長い実みたいなやつに、これ唐辛子みたいでかわいい、って友人が言ってくれて、それわたしはなすびと思ってたわ、っていうやりとり。一回り大きい花瓶しかなかったけど、そのまますぐにダイニングテーブルに飾ってくれたときのちょっとしたちぐはぐさがうれしかった。

テーブルでケーキの箱を開けるときに、なあ開けるで開けるで!って、お皿を用意しにキッチンにいた恋人を振り返って呼びよせる友人を見て、ふたりがそうやって楽しい瞬間を分けあってきたのがわかったし、これからもそうなんやと思った。このふたりが一緒に暮らすより素晴らしいアイディアってない。

 


8日

ボイトレの先生が、「ストライド」の「イ」のところ自然にビブラートかかってきててめっちゃ良かったよ!と褒めてくれる。短歌の教室でも感じることやけど、プロの人ほど教える相手に寛容で、自分では全然だめやと思ってるようなときも光るところを見つけてくれるのは、マジでかっこいい姿勢やなと思う。

言ってしまえば、中森明菜のスローモーションを歌うときにひとつビブラートが多くかけられるからって、aの母音のとき口を横に広げずに響きが一定にできるからって、だからなんやねん、って話やねんけど。最近の自分の心持ちとして、つぼみを気にかけながら育てていくみたいな、そういうはじっこの部分を磨いていくことがゆくゆくは自分の全体を裏付けてくれたりきれいに飾ってくれるって感覚で、だからなんやねん、にこだわってやっていくのが楽しい。

 


9日

最寄駅を出てすぐの小さいスーパーマーケットの自動ドアの前にどデカいプードルが繋がれてて、道ゆく人がみんなびっくりしたりニコニコしながら見てた。

なかなか物騒な世の中やからか、犬が建物の外に繋がれてるのを見ることって昔より減った気がする。

スーパーに入ると、ドア付近で明らかに必要ない行ったり来たりをしつつ入り口のほうにさりげなく目をやってる女性の店員さんがいる。犬を見てるのバレバレやったけど、盗まれたり逃げたりへの心配か、ただただどデカい犬が見たくてか、どっちやとしても、この人のこと好きやなと思う。

 


10日

いつも通り、理想の起床時間よりも20分ぐらい寝過ぎて、なんとか弁当をつくってスーツに着替えて9時前に家を出る。家の鍵を閉めて振り返った瞬間に、日曜の午前中のにおいや、って思った。

こういうのって気分の持ちようで感じるものやと思ってた。急いで仕事に向かう朝の準備の時間に曜日なんか意識する暇なかったし、まだ人が少ない街の景色も見てないのに、なんか空気がのびのびしてるような、ゆるやかな一日の始まりを喜んでるみたいな、なんかそんな感じ。

身体の感覚としてわかったのが不思議やったし、でもささいなことを見つめたり、それを心に留めてこね回したりをやり続けてきたから気づいたんやとしたら、うれしいことやと思う。

単に秋が近くなって朝のじりじりする暑さが和らいだのをそう感じただけかもやけど。