日記 2023年8月11日〜8月19日

 

11日

最近のいちばんお気に入りのカフェでオープンサンドを食べる。イチジクとサラミ、カマンベールチーズがいっぱい載ったやつ。このあいだ初めて同じものを食べたとき、もうチーズは食べ切ったなと思ったらイチジクの下からもうひとつ出てきたのはうれしい驚きやった。今日も、おおかた食べ終わったころ、もしやこの膨らみは、とサラミをめくるとやっぱりもうひとかけ出てきた。

 


13日

昼休憩に弁当を食べてから、左下、奥から2番目の歯のど真ん中にずっとなにかがいる。たぶん中華風の炒め物に入ってたナスのたね。歯ブラシにも、いらっしゃいませーの合間やお客さんがわたしに背中を向けている一瞬になんとか取ろうとする舌の圧にも耐え続けてもう17時前。ついでにコーヒーの飲みすぎで頭もグラグラする。体質的にたぶんカフェインあんまり良くなくて、でも好きやから、いつも調子を悪くしながらブラックコーヒーを飲む。

これで今日うちに帰るまでにふらっとなって車に轢かれたりとかして、死んだときのままの姿で幽霊になったら、ずっとこのままうっすら奥歯を舌先でほじり続けることになる

 


15日

台風がきて、職場が休みになった。わたしはもともと休みをもらっている日やったのでなにも変わりはないけど、なんとなく損した気分になる。最寄りのスーパーで2年間ずっと変わらず39円やったもやしをいつも通りに買って、次の日に野菜売り場を通ったら29円になってたときも似たような気持ちがした。

 


16日

月の半分くらいが休みの仕事について時間に余裕ができて以来、ぼーっとする瞬間のぼーっとの深さが違う。休みのたびに予定を詰め込んでいた頃からすると、その日の予定をなにも決めずにちょっと化粧をして、ふらっと外に出て適当な場所で本を読むなんていう過ごし方は考えられんかった。

8月の夏真っ盛りの公園でも日陰でじっとしていたら案外気持ちよく過ごせることに気づいた夕方なんかは、両方の頬やサンダル履きの足の甲まで虫刺されだらけになった帰り道もちょっとたのしく思えたりする。

 


17日

弁当にオムライスを作って持ってきた。今朝は時間がなかったのと単にめんどくさかったので、ケチャップライスの具は玉ねぎだけ。昼の休憩で食べたとき、グリーンピースとか入ってたらいいのになと思った。特に好き嫌いがあったわけではないけど、子どものときはグリーンピースはなくていいなと思ってたし、別にいまもそんなに好きとかでもないのに

 


18日

仕事で、山の上の古い大きいお家の美術品整理の手伝いに行った。亡くなった和歌山のおじいちゃんの家とにおいが似てた。陶器や置物やグラス、絵画や掛け軸なんかを段ボール数十箱に詰めて、でかいハイエースにぎゅうぎゅうになりながら会社の事務所に持って帰る。

社長が持って帰ったものの仕分けをするのを手伝って、良いものにも、ほとんど値段がつかないものにも、とにかくたくさん触る。「作品」と呼ばれるいろんなものにそうやって自分の手で実際にさわれる、それがわたしが食べていくための仕事になるって、無職になって途方に暮れてた5月には到底信じられんかった。美術の業界に入った。帰りの地下道でちょっと走った。

 


19日

大学時代の親友、というか、悪友と呼ぶほうが感覚的には近い、最高の友達が東京から帰ってきた。会って話すのはたぶん1年以上ぶり。その友達とわたし、共通の先輩たち含め6人で新大阪の居酒屋で昼過ぎに落ち合う。ひさしぶりに帰ってきたから、というのを差し引いても、話し方なのか、話の組み立て方なのか、ちょっとした話がやっぱりおもしろい。もの静かな会社の後輩と飲みに行ったときの立ち回り方に苦戦しつつも成し遂げた話に相槌を打つのも忘れて、仕草をじっと見ていたことに気付いて、あ、わたしこの子のことほんまに大好きなんやあとじわっとわかった。

酔って眠くなってきたその子がマイクロスリープしていい?って言った瞬間に、マイクロスリープしていい?をオッケーしたら10回中9回は二度と起きんこと、どこでも寝れて、休み時間にキャンパスのベンチで爆睡してるところを遭遇した友達みんなに写真を撮られてたこと、たまたま大学で会って、今日さ流しそうめんしたくない?ってお互いの夕方の授業をサボってチャリンコ2ケツでその子の地元を走ったこと、で結局流しそうめんせんかったこととか、大学時代の一緒に過ごした時間のかけらが一気に蘇ってきて、それめっちゃひさびさに聞いたわ!って笑いながらちょっとだけ涙が出た。

東京の大きい会社でバリバリ働いてる彼女の話にはたまにわたしの知らん単語もあったりして、わたしの知らんところにちゃんと彼女の日常があるのがうれしくて、かっこよかった。ほなまあまた会えるやろ!って改札へ入っていく背中を見送って、彼女への大好きや信頼してるの気持ちは、憧れにも近いんかもしれんと思った。また会おうね