日記 2023年10月16日〜10月21日

 

 

16日

心斎橋でのボイトレの帰り道に松田聖子の「瑠璃色の地球」を聴く。夕方の三角公園の近く、カステラ屋さんのある甘い匂いの角を曲がりながら、なんとなく歌詞がいつもより耳に入る感じがする。

そういえば聖子ちゃんが妊娠中に歌った曲やったなあと思い出す。母になる聖子ちゃんなら、恋愛のときめきとか男女の云々よりも、もうひとつ大きなテーマを歌えると踏んだらしい松本隆の眼力。この曲での聖子ちゃんの歌が素晴らしいだけに、子どもを先に失くすことがどれほどのことやろうと心が押し潰されるみたいになる。

 

 

 

17日

家に帰りながらどうしてもタコスが食べたくなって、でも店に行く気分でもないから、じゃあ自分で作ろうと思い立つ。だいたい家にあるものでできそうと思ってスーパーでトルティーヤだけ買って帰る。調べたレシピに書いてあったタコミート用の挽肉は豚ロースで、レタスはキャベツで、ピザ用チーズはスライスチーズをちぎって代用して、トマトとパクチーを載せて包んだら、ちゃんと食べたかったタコスになった。

実家を出たのをきっかけに自分でちゃんと料理をし始めて2年と少し経って、もういちいちグラムや大さじ小さじも計らんし、味付けや手順もなんとなく自分のやり方みたいなものができてくる。味も見た目も、本やネットで見るような完璧にしようと気負わずに、だいたいこんな感じかな、で自分のためだけに料理をすること、それを食べることは、自分の暮らしを自分で回していってる感覚を確かめる作業にもなってる。

 

 

 

18日

夜中の1時半ごろゴロゴロしながら、もう寝ようかというところで友達から電話がかかってきて、いま近くにおるから始発まで飲もやって誘い。もうとっくにすっぴんなんやけど、と答えながら、着替えてちょっと粉だけ顔にはたいて家を出る。

所謂フッ軽と言われる由縁やけど、小春なら来るかもと思って連絡をくれた友達の期待にはめちゃくちゃ応えたい、みたいな変な使命感がずっとある。そのせいではちゃめちゃな酔い方して喧嘩したり、二日酔いと反省で次の日が丸一日だめになったりするんやけど。

でもこういう予期してなかった意味わからんタイミングで友達と会うと、あの時マジ意味わからんタイミングで会ったよな、みたいなそれ自体が思い出になったり、中身あるんかないんかわからん話をしながら夜が明けるのを一緒に待った時間が紛れもない自分たちだけの記憶になって、まあ実際のところその時間の記憶すら失くしたりしながらやけど、また代わりのきかん大事な存在になっていく感覚があったりする。

こういう夜の始まりに聴きたい音楽がなんとなく浮かばんくて、挿してたイヤホンを鞄に戻して、誰もおらん静かな道を友達2人のいる店までチャリンコでぶっ飛ばした。

 

 

 

19日

かなりギリギリの時間感覚で生きてて、今日は11時27分に家を出て駅まで走れば遅刻せずに出勤できる。おおかたの準備を終えた11時22分に、お腹が空いてるから冷凍チャーハンを温めようか悩む。これがわたしの時間の勘定のかなりおかしいところで、2分間チンして、2分で食べて1分で歯磨きしたらいけるな…と思って皿に出してしまった。

レンジに入れる前にふと、今わたしは家を出る5分前に冷凍チャーハンを溶かそうとしてる、と頭の中で文章に起こしてみたとき、え、絶対いけるわけないやんと我に帰った。

チャーハンをラップに包み直して冷凍庫に戻す。一日の中の一番急ぐタイミングで、ただチャーハンを袋から皿へ、皿からラップへ移す作業に3分とられただけになった。

 

 

 

20日

下北沢にある曽我部恵一レコード店PINK MOON RECORDSが10月末で閉店前するから、先週東京に行ったときに最後の買い物をしてきた。そのことをインスタに投稿すると、バンドの友達から、ここ閉まるんや、ってコメント。それにわたしが、曽我部さんが忙しすぎるらしいって返したのに対して、イケイケな理由でよかった、って返信がくる。うわあと思う。ほんまやん。

わたしは、ああ寂しいなあとばっかり感じてたけど、そうやんなあ、ただ前に進んでいってるだけやんなって気づかされて、なにか表面的には悲しい変化が起こったときのその捉え方はマジでイケてるな、とかなりグッときてしまった。真似したい。

 

 

 

21日

職場のお姉さんに「こないだから言おうと思ってたんですけど、」って急に言われて、え、なに怖い!!と思ったら、わたしのスーツのジャケットの裾から長い糸が飛び出てたらしい。しっぽ出てるから言ってあげないとと思いながら忘れてました、って笑いながらわたしの後ろに回って、はさみで切ってくれる。