日記 2023年10月1日〜10月7日

 

 

1日

仕事が忙しくて2時ごろにお昼ご飯を食べたのになぜか夕方にはお腹が空きすぎて、終業の1時間前ぐらいから夜なに食べるかばっかり考えてた。

退勤してスーパーに行ったけど、あまりにお腹が空いてるときって、逆にこれから食べるものへの期待が高まりすぎてか、なかなか決められん。早くお腹いっぱいになりたいだけやのに。

散々悩んだ末にグリーンカレーにしたけど、結局食べるころにはいつもより全然遅い時間になってた。そういうことわざっぽい。

 

 

2日

店に英語話者の男の人2人が来て商品を買ってくれた。会計のあとどこから来たか訊いてみたら、アメリカのシアトルから来たらしい。英語なんかしばらく使うことなかったからパッとは出ん単語もあって、他のやりとりもちょっと辿々しかったなあと思う。でも、いいんだよーって感じにニコニコ話してくれて、英語に敬語らしい敬語がないからこその感覚かもやけど、会計も済んでるし、店員とお客さんっていうか、人と人として対等にコミュニケーションとってるなあとなんとなく思った。

お互いにとっての誰でもない相手との瞬間的な触れ合いがあるたびに、わたし以外の全ての人にも当たり前にこれまでの人生があるって事実があまりに途方もなくて、ちょっと気が遠くなる感じがする。私は行ったこともない、ふたりの故郷のシアトルを想像してみる。

 

 

 

3日

8時ごろに目が覚めてすぐ、朝のうちに洗濯機を回そうと思って洗剤と柔軟剤を入れてセットする。スタートボタンを押して、いつもやったらすぐにリビングに戻るのに、なんとなくそこに立ってぼーっとしてたら、うっすらカラ…カラ…みたいな音が聞こえる。なんかおかしい!!と思って洗濯物に手を突っ込んで探ったら、どっかのポケットに入れっぱなしやったらしいボールペンが出てきた。

これに、やっぱわたしってツイてるわあとうっとりできた心の調子の良さを、一日の始まりに確認できたのはよかった。

 

 

 

4日

昨日の夜は実家に泊まってた。今日は出勤やったけど、ふと思いついて、母にお願いしてお昼のお弁当を作ってもらった。たぶん高校時代以来、7年ぶりぐらい。

家を出てからはコロッケもウインナーも割高やから買わんくなったし、ほうれん草の和え物も、昔からお弁当によく入ってたソースとケチャップで味付けした野菜炒めも全部ひさしぶり。できあいでも手作りでも、やっぱり自分のお母さんの味ってある。

 

 

 

5日

タイのバンドのYONLAPAが来日してて、仕事終わりに全力ダッシュで心斎橋に向かう。

ただただ音を楽しんでるとわかる人の鳴らす音ほど気持ちのいいものってない。”i don’t recognize you”のアウトロで吸い込まれるみたいな没入感を体験したのがわたしのその日いちばん印象的な瞬間で、もともとアルバムの音源ではほかの曲がお気に入りやったけど、これも大好きな曲になった。

きっかけは忘れたけどYONLAPAを聴き始めたのはここ1ヶ月ぐらいで、正直そんなに詳しいとは言えん。でも自分の「好き」に敏感で、気になったらなんでもとりあえず行動に起こす、できるなら実際に触れてみる、っていう自分のスタンスやエネルギーは、いろんな特別をくれたなあと思い返す。Lingering Gloamingを頭から再生しながら帰りの御堂筋を歩くと、それぞれの曲に昨日まではなかった景色が浮かんだ。夜はもう寒い。

 

 

 

6日

お昼すぎに家を出て、駅へ向かう道でイヤホンを耳にさすと、あ、今日この曲やわとわかって「いちょう並木のセレナーデ」を再生する。

この曲に出会えた人生でよかったなあと思う。わたしの心にある、一番優しくてやわらかい記憶たちのいくつもの中でこの曲が鳴ってる。

2年前の冬、車の免許を取りに教習所に通ってた。技能教習の待ち合い室に座ってLIFEのアルバムを聴いていて、この曲が流れたときの不思議に穏やかな気持ちや、昼下がりの待ち合いの空気とプラスチックの椅子のひんやりした硬さをいまでも思い出すみたいに、特別じゃない瞬間を特別じゃないままに優しく残してくれてる。


秋の空気を吸い込みながらこの曲を聴くと、今日の前髪が変な方向に向いてることや、自分の顔や身体に気に入らん部分があることも、全部が全部ただただわたし自身で、それを許すとか許さんは置いといて、こうして生まれてきたこと、自分だけの世界との繋がり方で心が動くことのうれしさを、ほんまはずっと知ってるなあって気持ちが静かに溢れてくる。

 

 

 

7日

親友は窓の大きい家に住んでる。ちょっと作業しようって集まったのに、気がついたらパソコンもなにも全部傍にどけて、向こうはソファ、わたしは足を伸ばしてカーペットに座って、カーテン越しのお昼過ぎの陽射しの中で、音楽もテレビもなしに30分ぐらいふたりでおしゃべりしてる時間があった。それを意識した瞬間に、こんな風に過ごす時間ってわたしが手に入れたほんまの宝物やんと思って、なんか急にぐっときてしまって危なかった。

 

 

日記 2023年9月25日〜9月30日

 

 

25日

コピーバンドのイベントで、ひさしぶりのライブハウスの楽屋。まあまあ緊張してたけど、いざ入りしてみたら知ってる友達や先輩ばっかりでだいぶ助かった。楽屋でわたしがおにぎりを食べてたのをきっかけに、先輩と、年下の女の子と3人でおにぎりの具の話をする。俺は最悪この世から鮭以外なくなってもいける、とか、昆布好きなんシブ〜〜みたいなやつ。

天気の話が世間話レベル1やとして、こういうレベル2か3ぐらいのなんでもないことを膨らませて話す時間はなんかいいなあと思う。正直興味ない人に対してやったらすぐ終わらせられるような話題を、なにを求めるでもなくだらだら話すのって、わたしにとっては、あなたのことが好きですよ〜って意思表示が含まれてるからなんやと気づく。

 


26日

ひさしぶりに打ち上げに正式参加した代償の二日酔いで、一日ぼやっとしてた。最近の二日酔いの日は何故か近所の中華屋の麻婆天津飯を食べたくなる。米も卵も麻婆もアホかと思うほどの量で味も濃いけど、なんか二日酔いに効く気がする。

食べるたびに絶対思い出さずにおられへんのが、大阪大学豊中キャンパスの図書館下食堂の天津麻婆丼、通称テンマ。学食なんか大概たいしたことないけど、このメニューだけは謎の中毒性で根強いファンが学外にまでおるらしい。

テンマもちょっとどうかしてるぐらいの量でわたしは授業の合間とかに食べたら胃もたれすぎて話にならんかったからたまにしか頼まんかったけど、阪大生たちの御多分に洩れず、わたしにとっても大学時代を象徴するもののひとつ。

二日酔いの日なんかどうやってもスーパーバッド入ってるから、そうやって学生時代を思い出すものに触れると、今年25歳なにやってんねん…とかさらに落ち込んだりしつつも、食べ終わったらやっぱりちょっと復活する。あとやっぱテンマのがうまい。

 

 

 

27日

やっとスケジュールが合い、会社の先輩たちに歓迎会を開いていただいた。仕事を夕方で切り上げて、わたしリクエストの海鮮系の店で早々にビールと日本酒を飲み始めた。社長と、歳も関係も一番近いお姉さんと3人で行った2軒目でタコスとテキーラ、3軒目の薄暗おしゃれなバーでおいしいウイスキーを飲んだ。

自分が主役、夕方から飲める開放感、周りもお酒好きっていう最高かつ最悪な条件の揃い踏みで、案の定、記憶なし、PiTaPaなし、青あざあり。覚えてないけど、包み隠さずめちゃくちゃ喋ったしめちゃくちゃ話を聞いた気がする。飲みの席でだれと一緒でもすごい心を開いてしまうし最大値まで楽しむぞという意気込み、才能でもあるけど、いつかとんでもないことになりそうで怖い。めっちゃ楽しかった。

 


28日

うちはどんだけ二日酔いでも酒臭くても時間に出勤さえしてれば良い、という神託を社長直々に授かってたから、そこだけは安心感があった。ボロボロで起きてシャワーを浴びて申し訳程度に化粧をして、家を出る5分前に一発戻してからほぼゾンビで店にたどり着いて、なんとか開店した。今年の5月ごろには無職で毎日唸りながら未来を憂いてたのが信じられん。試用期間が無事終わり歓迎会まで開いていただいた状況の自分に生まれてる責任感に感動した。

午前中はお辞儀すると吐きそうやったから、たぶん3°ぐらいしか頭下げれてなかった。

お昼には同じくへろへろのお姉さんがわたしの分のヘパリーゼと一緒に出勤してきてくれて、ふたりで1時間ずつ交代しながら働いた。

飲みすぎるたびに、毎回こんなしんどさもう二度と味わいたくないと思うけど、悲しいことに、このどん底に一緒に沈んでる一体感で、お姉さんとは確実に絆が深まったのを感じた。こういうのを面白いと思ってしまう限りは、己の愚かさに向き合いつつ、やっぱりまた飲みに誘ってしまうと思う。

 


29日

髪が伸びた部分のくせがひどくなってきて、縮毛矯正とカットをしてもらいに美容室にいく。カットがひと通り終わってから、担当してくれてる店長が、ケトバシだけ代わりますね〜と言い残して去っていった。なに?と思ってるうちにアシスタントの女の子がドライヤーとブラシで身体や顔まわりについた髪をきれいに飛ばしてくれて、それが「毛飛ばし」やとわかった。

 

 

30日

3歳のころから家族ぐるみで付き合っている幼馴染と、そのお母さんと、うちの母との4人でイタリアンを食べに行った。母同士は年に数回集まってるみたいやけど、わたしと幼馴染はちゃんと会うのはたぶん3年ぶりぐらい。

こうやってお酒を飲めるようになるなんてね〜と、各々の近況や家族のことを話しながらご飯を食べたあと、母たちとは別れてふたりで2軒目に行った。

幼馴染と言っても同じなのは幼稚園と、小学校に入ってからの習い事のいくつかだけで、それ以降は違う道でそれぞれやってきた。いま出会ってたら友達になってたかな?と思うくらいに、性格や考え方も興味のあることも全然違う。

不思議な関係性やと思う。スイミング教室の待合でわたしが椅子から落ちて怪我した話や幼稚園で仲良く病気をもらった話、家で気に入ってやってたテレビゲームの話、何冊もやりとりした交換日記の話、半分ぐらいはお互い覚えてなかったけど、思い出話の中に、確かにわたしたちふたりだけが共有してる温度感がずっとあった。

家族とも、親友ともまた違う特別なところにいるのが言わずともわかって、この感じ、友達歴21年すぎるなあって言い合いながら終電のギリギリまで話した。

また秋ごろ飲みいこって約束してバイバイしたけど、でももし次がまた数年くらい空いたとしてもこの温度感は変わらんなって確信がある。そういう存在がひとりいてくれるだけで、特別になれる自分もいる気がする。

 

 

日記 2023年9月18日〜9月24日

 

18日

コカコーラの自販機で飲み物をこつこつ買ってアプリに貯まった15ポイントで、値段に関わらず好きなものを1本無料でもらえる。いつも職場の自販機で130円のコーヒーを買って、いつもちょっと残るのに、せっかくやったら少しでも高いもののほうが良いと思って、ひとまわり大きいサイズの140円のコーヒーを選んでしまう。

 


19日

仕事終わりに、ひとつ下の女の子と飲みにいく約束をしてる。前の冬に友達の友達としてライブハウスで出会って、それからちょくちょく2人で会ってる。ここ2、3年で新しい出会いや、そういう繋がりで友達ができることをおもしろいと思うようになってから、格段に自分の世界が広がった。

その子は今日お休みやったらしい。わたしの仕事中の夕方の時間に、「先にはじめてます」って海で缶ビール飲んでる写真が送られてくる。もともと自分が最低限の連絡ぐらいにしかLINEを使わんから、こういう、なんていうかちょっと踏み込んで送られてくるメッセージに、不思議と信頼されてるみたいなうれしさを感じる。

 


20日

職場の先輩との文面でのやりとりには、!マークとか絵文字とかは使わんようにしてる。一番お世話になってる女の先輩とどんどん仲良くなってきて会ったときはかなりラフにしゃべるのに、文章は「よろしくお願いいたします。」って感じで送るの、仕方ないけど体感ちょっとそっけないねんなあと思いながら送ったチャットに、「お疲れ様です🫡」って絵文字がついて返ってきて、ちょっと気持ちがほどけた感じにうれしくなる。それ以降、!マークは解禁した。

 


21日

夕方から夜までずっと窓のない場所と地下にいて、そのまま地下街から地下鉄に乗って帰るあいだ、iPhoneの「天気」が豪雨になってた。駅から家まで自転車いややなあ、傘持ってきてないし駅のコンビニあたりで買おうかとか悩んで歩きながら、周りを歩いてる人たちの傘をなんとなく見てると、きれいに畳まれてて全然濡れてない。

それから出番がなかったかとっくに終わったであろう傘を持ってる人を見かけるたびにどんどん確信が強まって、いよいよ家の最寄り駅の地上への階段で見上げた空がきれいに晴れてたときの気持ちよさ。

実際プラマイゼロやねんけど、なんか得したような、うっすらさわやかな気分になる。駅前に停めてた自転車のサドルについた雨粒もほぼ乾いてる。軽く手で払って、行く予定もなかったちょっと離れた本屋まで自転車を飛ばした。

 


22日

コピーバンドやけど、来週ひさしぶりにライブハウスで歌うのが決まってる。音作りとかいろんな感覚を忘れてそうやから、出勤前の午前中に1時間スタジオを予約して、半年ぶりぐらいにマーシャルにギターを繋ぐ。

「いつものセッティング」をやってみる。マーシャルは2000が良くて、ツマミは決まった目安の目盛りからそのときの体感で良いところに寄せていくってやり方。で、まあ予想はしてたけど、やっぱりどうもピンと来ない。わたしの音ってどんなんやったっけ、となりつつ、でもやってるうちにまあなんとなくいい感じになったから曲を弾いてみると、こんなに気持ちいいことないよなあと改めて思う。

スタジオのでかい鏡に映った自分は去年からファッションも髪の長さも変わったけど、やっぱりこのギターがよく似合うし、抱えてるだけでなんか安心感がある。文字通り、汗も涙も染み込んでるからかも。

ローンの支払いが終わるたびにどんどん新しいギターは欲しくなるし、これからも買うつもりやけど、この一本が自分の一番のパートナーって感覚はずっと変わらん気がする。そういうものをひとつ持ってる喜びを思い出した。

 


23日

親友と万博記念公園の芝生の広場でやってた陶器市に行く。フードの出店もあったから、スパイスカレーや魯肉飯をつまみに午前中からビールを飲みはじめて、各々気に入ったうつわも買い、おやつにスコーン3種類のセットひとつを半分ずつわけて食べたりした。

夕方にはふたりともまあまあ酔っ払って調子良くなってて、「わたしさっきから分けるんうますぎん?」って言いながら割った最後のひとつのスコーンが今までで一番完璧な半分になって、なあーーーやばすぎる!!!!ってなんかふたりでゲタゲタ笑いながら写真まで撮った。

 


24日

職場の共用の深めの引き出しにペンやテープやホッチキスやノート類がしまってある。出勤したら、一昨日まではなかったシールタイプの小さいフックが内側に取り付けられてて、マスキングテープがそこに引っ掛けてあった。引き出しの絶妙な深さのせいでちょっと使いたいときにいつも行方不明になりがちやったから、先輩が設置したんやと思う。こういうちょっとした工夫ができる人が好きやし、自分にはない類の気配りに憧れる。マスキングテープを使うたびになんかちょっとよかった。

 

日記 2023年9月11日〜9月17日

 

11日

通勤用のカバンを探しに梅田を徘徊して、3時間くらい歩き回ったけどピンとくるのに出会えず。サイズはA4以上でマチのあるやつ、合皮は安っぽく見えてイヤ、色は黒とかの暗めで、自立する造りで予算に収まるもの、っていう条件、そんなに難しいかなあと苛立ちつつ、蔦屋書店に吸い込まれてカバンの予算から本を2冊買う。

それでもう気持ちが切れてしまって、中途半端なやつで妥協するなら諦めて帰ろうかと思った矢先、ふらっと通りがかったアーバンリサーチで見つけたのが、A4以上でマチがあって、柔らかい合皮で、嫌味っぽくないゴールドで、自立しないやつ。余裕の予算内。思ってた条件とはかなり違うけど、店の鏡に映るカバンを肩にかけた自分の姿がやけに自然で、いつも着てるスーツで持ってるのが想像できた。

こういう想定外があって手に入れたものって、その分もっと愛着が湧いたりする。値段やブランドの良し悪しじゃなく、手に取る度にちょっとうれしくなって、いまの暮らしに馴染むけどちょっと輝いてるものを持つ楽しさがわかってきた。

 

 

 

12日

とんでもない二日酔い。休みの日をこのまま寝て終えるのは悔しくて、とりあえず17時前になんとか家を出て近所のラーメン屋に行く。醤油ラーメンの到着を水を飲みながら待ってると店のはじっこのテレビでおじゃる丸が始まる。まったりまったりまったりな〜♪ってオープニングいつまでも変わってないんや、とぼーっと眺めてたら、カウンターの隣の隣に座ってた大学生ぐらいの男の子二人組が「オープニングまだ変わってないやん」って笑ってた。

 


13日

職場の先輩の海外旅行のお土産話を聞かせてもらう。3カ国を巡ったらしく、飛行機に11回も乗っておいしかった機内食のこと、気球から見た朝日の写真、現地のぼったくりがすごくてむかついた話、電車を乗り間違えてわけわからん街に着いたトラブル、古代遺跡の中に入った動画、入国審査が今は自動化されててスムーズだったとか、iPhoneのカメラロールを見せながら教えてくれた。

話しながら目を見てると、宝物みたいな思い出を大切にわけてくれてるのが伝わってきて、わたしまで胸がポカポカするみたいにうれしくなる。その気になればどこにでも行けるんやって事実だけで、自由になれる心があるのに気がついたからやと思う。

 


14日

別に見届けんくてもいいやと思って近所の焼き鳥屋に入ったけど、結局店で流れてた野球中継のラジオに阪神の優勝が決まるまで聴き入ってしまう。スポーツ然り、伝説的なバンドの復活然り、自分がどれくらい関心を持ってるかは置いといて、歴史的と言われる瞬間に立ち会うのは楽しい。何年後かにまた同じことが起こったときに、たぶん今日あのとき食べてたタレつくねのことを思い出す。あと、絶対に会計間違えられてて800円くらい余分に払った悔しさと。

 


15日

綺麗に化粧をしてしっかり髪をまとめた美容部員さんがお客さんと電話で話すあいだ、ずっと完璧な販売員の丁寧な言葉遣いやのに、そのときだけコテコテ大阪弁の「ありがとうございますう⤴︎」の憎めない響きが繰り返し聞こえてきた。

 


16日

短歌教室の帰り、いろんな人のいろんな情景や心の動きの洪水を3時間浴びたあとの不思議な高揚感を抱えて駅まで歩く。JR大阪駅の御堂筋口から3人でぴょんぴょん跳ねて踊りながら出てきた女子高生たちにびっくりしてよく見ると、わたしの母校の制服を着てる。ああ、それそれその感じ、ってほほえましく思い出す。

わたしが通ってた頃は、国際科が強くてみんなが好き勝手やるような校風の女子校やから、グローバルメスゴリラ学院と呼ばれてた。

 


17日

昨日は東京からひさしぶりに帰った友達と鳥貴族で軽く飲みながら話し込んで夜更かししちゃったけど、とりあえず10時ごろに起きる。最近よくある、予定のない休日。今日なにが起こるかわからんけど、わからんからこそ、ちゃんと服を選んで丁寧に化粧する時間は楽しい。時間をかけただけあってかわいく仕上がるから、出かけざるを得んくなるし、必ずなにかを起こすぞって気合いが入って、大抵なんやなんやおもしろい日になる。

気の向くままに自転車を走らせると本屋にたどり着く。フロアをひと通り巡ったあと、短歌教室で出会った方が「前田さんが好きそう」ってきのう教えてくれた歌集を、去年友人の結婚式のビンゴ大会でもらったギフト券で買った。これは思い出でもあるから然るべきときに、と取ってたギフト券やったけど、納得のいくうれしい使い道。

 

 

日記 2023年9月5日〜9月10日

 

5日

教養として必要やな、とギターのコードや理論はふわっと勉強したけど結局いまではほとんど抜け落ちてしまって、完全に勘で曲を作ってる。3ヶ月ぐらい前に作って弾き語りで録音だけしていた、いまの自分のテーマソングのような歌をいよいよ仕上げようとボイスメモを開く。

向井秀徳が「オレ押さえ」を多用してるのに励まされて、公式に存在するんか知らんけどたまたま見つけたなんか良い響き、みたいな変なコードはすぐ使いたくなる。

ポジションのメモや動画をとらんから、数ヶ月も経つと押さえ方も忘れてて、なんで残さんで大丈夫と思った?と悔やみながら探してる時間はまあ情けない。でも、そこでそう来るんアツ〜〜とか他人事みたいに過去の自分に唸ったりしながらそのコードを探してるうちに、こっちのがもっといけてるやんって音が見つかったりする。

 

 

6日

昼間から5時間に渡る出張先での作業を終え、くたくたで助手席に座って、運転席の社長に顔を向けつつ話をする。横目に景色をなんとなく映しながら、高速道路が堺の工場地帯沿いに差し掛かったとき、左側からまぶしい光が車内に入ってハンドルあたりを照らす。あ、と思って、話が途切れた一瞬を見計らってちらっと視線を向ける。

ゲリラ豪雨が過ぎたあとの17時の空気がどこまでも澄んでて、複雑に入り組んだ工場群の構造がはっきりわかる。その向こうから夕暮れ前の最後の陽射しが差して、ちぎれた雲が浮かぶ空に、くるりの「天才の愛」のジャケットを思い出す。あれたしか坂口恭平さんのパステル画、わたしもあんな風に絵が描けたらよかったのにと思う。写真には写らん瞬間。

何事もなかったかのように会話に戻って、いま一瞬だけ見た映像を頭の中で補いながら、通り過ぎるまでの数分間、光る工場地帯をまた横目でずっと見てた。

 

 


7日

友人とその恋人の新居に招いてもらったので、お祝いにケーキと小さい花束を持ってあそびに行く。花束に入ってたつやつやした細長い実みたいなやつに、これ唐辛子みたいでかわいい、って友人が言ってくれて、それわたしはなすびと思ってたわ、っていうやりとり。一回り大きい花瓶しかなかったけど、そのまますぐにダイニングテーブルに飾ってくれたときのちょっとしたちぐはぐさがうれしかった。

テーブルでケーキの箱を開けるときに、なあ開けるで開けるで!って、お皿を用意しにキッチンにいた恋人を振り返って呼びよせる友人を見て、ふたりがそうやって楽しい瞬間を分けあってきたのがわかったし、これからもそうなんやと思った。このふたりが一緒に暮らすより素晴らしいアイディアってない。

 


8日

ボイトレの先生が、「ストライド」の「イ」のところ自然にビブラートかかってきててめっちゃ良かったよ!と褒めてくれる。短歌の教室でも感じることやけど、プロの人ほど教える相手に寛容で、自分では全然だめやと思ってるようなときも光るところを見つけてくれるのは、マジでかっこいい姿勢やなと思う。

言ってしまえば、中森明菜のスローモーションを歌うときにひとつビブラートが多くかけられるからって、aの母音のとき口を横に広げずに響きが一定にできるからって、だからなんやねん、って話やねんけど。最近の自分の心持ちとして、つぼみを気にかけながら育てていくみたいな、そういうはじっこの部分を磨いていくことがゆくゆくは自分の全体を裏付けてくれたりきれいに飾ってくれるって感覚で、だからなんやねん、にこだわってやっていくのが楽しい。

 


9日

最寄駅を出てすぐの小さいスーパーマーケットの自動ドアの前にどデカいプードルが繋がれてて、道ゆく人がみんなびっくりしたりニコニコしながら見てた。

なかなか物騒な世の中やからか、犬が建物の外に繋がれてるのを見ることって昔より減った気がする。

スーパーに入ると、ドア付近で明らかに必要ない行ったり来たりをしつつ入り口のほうにさりげなく目をやってる女性の店員さんがいる。犬を見てるのバレバレやったけど、盗まれたり逃げたりへの心配か、ただただどデカい犬が見たくてか、どっちやとしても、この人のこと好きやなと思う。

 


10日

いつも通り、理想の起床時間よりも20分ぐらい寝過ぎて、なんとか弁当をつくってスーツに着替えて9時前に家を出る。家の鍵を閉めて振り返った瞬間に、日曜の午前中のにおいや、って思った。

こういうのって気分の持ちようで感じるものやと思ってた。急いで仕事に向かう朝の準備の時間に曜日なんか意識する暇なかったし、まだ人が少ない街の景色も見てないのに、なんか空気がのびのびしてるような、ゆるやかな一日の始まりを喜んでるみたいな、なんかそんな感じ。

身体の感覚としてわかったのが不思議やったし、でもささいなことを見つめたり、それを心に留めてこね回したりをやり続けてきたから気づいたんやとしたら、うれしいことやと思う。

単に秋が近くなって朝のじりじりする暑さが和らいだのをそう感じただけかもやけど。

 

日記 2023年8月28日〜9月4日

 

28日

晴れた休みの日は必ず洗濯を回す。ハンガーの数も物干し竿の長さもそんなにないし、溜め込むとどんどんできんくなるのもあって、3日おきくらいのペースが一番楽やとわかってから、自然とそうなった。今日は4日分の服とタオルのあとにベッドシーツも回してしまって、回してから、干す場所ないやん!と気がついて、仕方ないからほかの服たちの上にちょっと被さるような感じではあるけど、なんとか竿にひっかけた。

多少変な干し方だろうが日陰になろうが洗濯物は乾くし、そのまま夜まで放っておいてから取り込んで敷いてみたシーツもタオルもやっぱり気持ちいい。そんなことありえるわけないのに、いつも人として完璧に高潔でいないといけないという思い込みや、それでできなかったことに執着してしんどくなってしまう自分にずっと前から気が付いてて、でも、ある程度適当にやってもちゃんと気持ちよくできあがった洗濯物たちを畳んでると、こうやってやってきたやんー大丈夫やで、て言ってくれる感じがする。

 


29日

やきものの勉強をする。今日は石川県の九谷焼。本から抜き出した九谷焼の起源を書きつける。「有田で陶技を学んだ後藤才治郎が1655年に開窯」。

「才」の字を書くたびに、小学生のころ通ってた塾の教室が浮かぶ。なかなかのお利口さんやったから、習った漢字をテストで間違えるようなことはほとんどなかった。

5年生のときやったと思うけど、たしか「才能」と書く問題で、「能」は書けたのに、「才」の3画目のはらいを左下から右上にハネで書いてしまって不正解になった。

当時、各教科に100問テストというのがあって、それ用に回答欄が100個ある用紙があった。間違えた漢字は、その回答用紙に100回書いて提出する決まり。

ああいう書き取り練習はたいてい「薩摩藩」とかの難しい漢字でやるやつやし、そもそも「能」をききたかった問題やろ、もう覚えたって…と思ったけど見逃してもらえるわけもなく。こんなん意味ないやんって渋々終わらせたけど、「才」の3画をきれいにあの枠内に100回書く時間の悔しさが、塾のカーペット敷きの教室のちょっとほこりっぽいにおいと一緒に焼きついてて、15年経った今日も迷わず3画目は左下に向かってはらえた。

 

 

30日

道の向こうのお店の前を急ぎ足で通り過ぎようとした女の人が、店員のショートヘアの女の人を見つけて、髪けっこう切ったね!って仕草をしていて、それでふたりがお互いを知ってるってことがわかった。

 

 

31日

向かいの雑貨店のちょっと日焼けした茶髪のお姉さん、いつもぴったりサイズのTシャツを着こなす引き締まった健康的な痩せ方が理想すぎて、ふとしたときに目で追ってしまう。海とかサーフィンが似合う感じ。いつも表情豊かで、話すだけで周りをぱっと明るくしてくれるような雰囲気。

絶対筋トレかヨガか、なんせ自分の身体にこだわって過ごしてる人やろうなーと思ってたら、夕方のみんなが疲れてくる頃に同僚のお姉さん2人にストレッチを教えてるのを見かけて、やっぱりそうですよね!!!!!ってなんかすごいうれしくなった。わたしの生活をちょっと明るくしてくれる名前のない繋がりのひとつ。

 

 

9月1日

ネイルを付け替えにいく。いつものサロンやけど、特に指名はしてないから毎回違うネイリストさんに担当してもらう。どの指から始めてどういう順番で塗っていくかはそれぞれやけど、今日の人はちょっと独特やった。

右手の小指→薬指→中指ときたら、大抵の人は左手も同じように小指からの3本を塗るところを、左手は薬指→中指→人差し指と仕上げる、みたいな変則的な進め方。

自分にとっては一番スムーズやからとか、なんとなく気持ちいいからとか、もしかしたら願掛けとかもありえるかもしれん。日々当たり前になってる作業や動きの中に、その人のルールがふいに見える瞬間が好き。為人やストーリーを想像する。


こういう場所での会話はくたびれて苦手やけど、美容室で本や雑誌を読んだり、まつ毛エクステの間に寝たりするのと違って、手が塞がってるうえに動かれへんからなにもできず、黙って座ってる。話さん客やとわかってくれてるから、ネイリストさんも無理に話題を振ったりせず黙々と作業してくれる。自分の身体がきれいに整えられていく過程を静かに見守るだけの時間。ネイルサロンの帰り道がいつもちょっとつやつやの気分なのは、たぶん爪がかわいくなったからだけじゃない。

 


2日

仕事の日はピアスを全部外す。職場の最寄駅で電車を降りたときに、ホームの向こうから歩いてきた金髪に派手なピンクの服の女の人の右耳の軟骨ピアスが光って、自分の左耳軟骨のが刺しっぱなしになってるのに気がついた。

 


3日

元バンドメンバーのふたりとDENIMSのクルーズ船ライブを見に行く。日が暮れて大阪港から船が出港すると、ちょっと蒸し暑かったデッキにも風が涼しくて磯の匂いがした。ハイネケンを飲みながら踊りまくる。終盤の「I'm」を3人並んで聴くと、2020年9月22日を思い出した。KANSAI LOVERS2020、初めての大阪城野音のステージ、あんなにライブ中の記憶がないのも珍しい。相当に緊張してたんやと思う。朝イチの自分たちの出番を終えてやっと気持ちがちょっとほどけてきた夕方ごろ、DENIMSのライブ。当時、数日前にリリースされたばっかりの新曲やった「I'm」を野音の客席で3人並んで聴いた。

そのときなにを思ってたかはもう覚えてないけど、あの日あのときあの瞬間のテーマソングになってて、たぶんこれからもずっとそう。

隣にいるふたりと、カンラバ思い出すよな、とだけ言い合って耳を澄ます。今度からは潮の匂いの混じった汗ばんだ空気と、ビールを飲んだぼんやりした高揚感も一緒に浮かんでくると思う。

 


4日

ライブ後のトリキがききまくってる。昨日はビール一本槍やったから二日酔いはそんなにひどくないけど、飲みすぎた次の日の謎の罪悪感が重たい。水をくみにキッチンへ起きると、シンク横の調理スペースにクリップチューナーが置いてあった。帰り道と帰ってからの記憶が見事にコマ送り。

単純に長い時間を一緒に過ごしたから以上に、ふたりほど、食の好みと食べる量と飲むペースが完全に一致する友達にまだ出会えてない。ある一定まではおんなじ速さでグラスを空けながらおんなじように壊れていって、最後はだれが一番調子乗ったかの差で終わりを迎える時間が違う。25にもなって、しかも3人しかおらんときに、未だに酒をいっぱい飲む、速く飲むとかって遊び方をしてしまうのはほんまに愚かやとわかりながら、まあどーなってもおもろいやろ、みたいな一緒にネジをぶっ飛ばしてくれるあの不思議な無敵感を好きでい続けてしまう。元気でいられるうちは、たまにこうやって集まって、デッカいあざをつくったり、ブレブレの写真を撮りまくったり、マジのいらんこと喋っちゃったりしたい。

 

 

 

日記 2023年8月20日〜8月27日

 

20日

出前の寿司桶に5個ずつ並んだ色とりどりの寿司たちの中で、「バカ寿司」と呼ばれたのがコーン寿司やと全員が一瞬でわかった。

 


21日

父とねこが同じポーズでお腹を仰向けに出して寝転がってる写真が、母から家族のライングループに送られてくる。「前田家」ってグループは、父や母や兄が2匹のねこの寝転がったりだらけてる写真を送ってきて、それにわたしが「さいこ〜」「助かる」「(スタンプ)」とかコメントをつけるやりとりが8割。この夏で実家を出てから2年が経った。

 


22日

職場で、わたしが先月半ばに梱包を済ませて置いていた商品を発送することになった。梱包時は入社直後だったこともあって、慣れてきた今なら忘れることはない、包装の上に必ず貼る決まりの会社のシールが貼られていなかった。忘れてるよ、と先輩に軽く言われて、あ!すみません、とだけ言えばいいのに、いまはもうわかってるんです、絶対忘れないんですって訴えたい気持ちがふいに出てしまったか、なにもわかってない頃に包んだやつです…って言い訳がましく付け足してしまった。大々的にいやな人間のそれってわけではないけど、別に言わんくてもよかった一言。それを思い出すたびちょっと落ち込む。で、その小さいことで落ち込んでいることに気づいてまたちょっと落ち込む。

 


23日

お客さんに送る商品の段ボールへの梱包作業をあらかた終えて、封をする前に先輩にチェックしてもらう。扱うのが陶器とあって、梱包にはものすごく気を使う。商品を入れたあとに、緩衝材として大きい茶紙を丸めたものを詰める手順なんやけど、四隅にまだちょっと隙間があったらしい。「前田さん、ここの詰めが甘いです」と言われて、実際のモノの状態と慣用句としての意味がここまで完全に一致することってあるんや、と、思わず「おお〜」と言いそうになったのをなんとか堪えて変な間ができてしまった。同じようなケースがほかにあるか考えてみたけどまだ思いついてない。すごかった。

 


24日

なんとなく落ち着かん日ってある。せっかくの休みやけど雨が降っていたので出かける気にもならず、ずっと気になってたクローゼットの整理に取り掛かる。最高と思う服、まあ一応置いとこうの服、処分する服に分けたところで、そわそわが止まらんくなり、やっぱり喫茶店で作業でもしようと思って商店街に向かう。

向かいながら、こういう日は大抵なにをやっても上の空やから、作業はだめやと思い直す。商店街はいつもちょっと新しい景色があるから、ひたすらアーケードを歩きながら音楽を聴く時間にしてみようと決めた。ちょっと悩んで、じっくりは聴けてなかった台風クラブの2ndアルバムを選ぶ。

屋根付きの長い直線の道としての商店街の使い道を見つけたり、そういう発見や遊びの発明があるたびに、みんなに教えたいとも、絶対誰にも言いたくないとも思う。大事な人にだけ伝授するのも楽しい。2曲目の「へきれき」が好きやった。歩きながら聴くのに向いてる。

 

 

25日

きた。スーパーバッド。たまにやってくる掴みどころのない気持ちのしんどさ。冷静に、なんでいつもこうなるか考えてみる。自分の心の動きに気づかないふりをしてしまったことを自覚した瞬間に、またそうやって自分で全部だめにする、って気持ちになってる気がする。

 


26日

ここであえて、あえてのノー飲酒からの筋トレ、極めつけにギターを弾きまくってだいぶ取り戻せた。あとは日にち薬でいけるのも知ってる。ここでしんどさに沈むために飲んだり、まったく新しい景色を求めたりするんじゃなくて、日常通りに戻りたいからこそ、無理やり日常通りに動く。普段はなにを決断するにも心が最優先やし無視したら絶対だめになるけど、こういうときだけは身体が先、心はあとで良いって気づく。

この夏で手に入れたよいもののひとつはこういう図太さと行動力やと思う。ほんまの意味で自分を可愛がるというのがどういうことかやっとわかってきた。

食べすぎた次の日にいっぱい走ったり食事抜くんじゃなくて、いつも通りのご飯に戻したら数日で元の体重に戻るってところから得た学び。

 


27日

一日の店番の仕事が終わり、今日の売り場での出来事を電話で社長に報告する。ひと通り伝えて電話を切ろうというときに、前田さんのことみんな褒めてるよ、いい子が入ってくれたわーって、とさらっと言ってもらう。ぶわっと胸のあたりに一気に気持ちがあがってくる感じがして、ありがとうございます、うれしいです、がんばりますとしか言えずに通話を終えたけど、帰る前に陳列のガラスケースを磨いた。